かけらブログ

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「アリータ: バトル・エンジェル」は意外にも銃夢だった

2/21に一部先行上映されていたので、原作ファンとしてアリータ: バトル・エンジェルを見てきた。
原作リスペクトと称してやたらデカい目のCGを仕込んだり、吹き替えで古舘伊知郎を起用したりと、事前に出てくる要素に不安が多かったのだが、意外と面白いところもあったので、原作の概要、原作との相違、見るべきところなどをまとめた記事を書いた。
最初に断っておくと、目のデカさはすぐ麻痺して気にならなくなるよ。

www.foxmovies-jp.com

原作「銃夢」の概要

原作を知らない人向けの説明。
アリータ: バトル・エンジェルは、日本の漫画「銃夢(がんむ)」が原作。
1990年から1995年にかけて連載され、一度一応の完結はしたものの、作者が描きたかったことを描ききれなかったため、「銃夢 LastOrder」(2000年~2014年)、「銃夢火星戦記」(2014年~現在連載中)の続編が作られている。

主人公はサイボーグの女性で、開幕では記憶を失っており、原作だと「ガリィ」と名付けられる。この「ガリィ」は英語で荒野といった意味で、女性名らしくないということで、英語版では原作の1シーンから「Alita」と変名されている。 これに伴い、「銃夢」は英語版で「Battle Angel Alita」と改題され、このタイトルからわかるように映画のストーリーは「銃夢」の前半部分を基礎として作られている。

銃夢」は90年代前半の漫画であり、いわゆるサイバーパンクものにカテゴライズされるため、原作を今読むと設定、表現、絵やセリフはどうしても時代を感じるものがある。
一方で、バトル漫画としては、科学やオカルトがごった煮となったハデさが持ち味で、胡散臭さのあるそれらのギミックを画力でねじ伏せている作品。
映画ではこのバトルシーンがハリウッドパワーで強化され、逆にサイバーパンクさが原作から控えめになっているため、今の時代向けのチューニングを感じる。

なお、続編の「銃夢 LastOrder」はバトル路線を引き継ぎ、最後のバトルでは反物質パンチとブラックホールパンチというトンデモが登場する。
こちらも是非読んでいただきたい。

原作との相違

原作を知っている人向けの話。映画のネタバレあり。

  • 登場人物
    ガリィ、イド、ユーゴあたりは概ね原作に近いが、イドの相棒のゴンズは黒人女性となっている。イドはガリィへの執着が娘を危ぶむ父性に昇華され、中盤からはあっという間に物分りが良くなり、快楽殺人者の側面は明確に描かれない。また、イドの妻と娘が新たに設定され、イドと故郷へ帰ることを目指している。
    師匠のゲルダもフラッシュバックで出るものの、アサルトライフルで戦ったりしており、機甲術は?という有様。ザパンも登場するがなぜかモヒカン。
    そして一番変化が大きいのがノヴァ教授で、わずかに登場するものの、悪い方向にチンケでステレオタイプマッドサイエンティストと化している。プリン食べないし。
    あれでは続編が出ても「一千の貌」や「熱力学第二法則」なんてとても吐きそうにない。
    ただ、一般受けを考えるならこの変更はやむなしというところ。

  • クズ鉄町
    映画では、東南アジアかインドかといった発展途上国の雑然とした明るい町並みで描かれ、原作の街全体がスラムのような印象がない。住人達も貧しいながら日々を楽しく過ごしている様子で、閉塞感に満ちたディストピアの趣がなくなっている。夜間は原作イメージに近しいものがあるが、廃材が絡み合って出来たような都市には見えない。世界もほとんどが滅亡しているという設定だが、これも全体から感じられない。
    このクズ鉄町のライト感が、ザレムに搾取される下層の人民という背景を薄めてしまっており、ユーゴの悲壮な脱出志向も何か薄っぺらく感じさせてしまう。

  • ザレム
    なんか低い。というか近い。
    双眼鏡でザレム人見えるんじゃないの?というレベル。
    遙かなる天空の城というオーラがあまりないのは残念。

  • 機甲術
    名前しか出ない。
    振動をどうこうなどのギミックは、原作でもモーターボール戦あたりから徐々に増えるので原作通りと言えば原作通り。
    したがって映画ではただの拳法描写のみ。

  • モーターボール
    ジャシュガン、アジャカティ、アルムブレスト、ザファルタキエなどの面々は名前や僅かな登場に留まるが、これは続編に出番をとっておくためと思われる。
    ジャシュガンとのガチバトルを早く見たい。

見どころ

原作はさておいて、オリジナル映画とした時の見どころを語る。

  • モーターボール
    かなり良い。難を言えばボリュームがもっと欲しい。
    映画でのモーターボールはアリータvsザコ相手のシーンのみだが、それでもサイボーグ同士の高速バトルが楽しいし、町中の疾走シーンも魅せられる。
    走行アクションをスピードでごまかさず、重量感がわかるアクションをしていて爽快感があった。続編でもこれをより高めて欲しい。

  • バトル
    モーターボール以外のバトルは、アリータの無双ばかりで、ワンパンKOがほとんど。サイボーグ拳法家同士が真正面で撃ち合いをするようなシーンがほぼなかったのは惜しいが、これも続編でお願いしたい。
    唯一、原作でいうマカクに当たるキャラとのバトルは、サイボーグ同士の戦闘がゴリゴリに描かれていて良かった。

  • ロマンス
    ユーゴは映画ではヒューゴとなっているが、ヒューゴとのラブロマンスは映画の中心に据えられている。
    原作と対比すると、ガリィとユーゴの関係は同年代あるいは姉弟のようだが、ヒューゴとアリータは兄妹に近い。また、ガリィの描写は「女である前に戦士」だが、アリータは「女であり戦士」といった説明ができる。
    ガリィの暴力は戦士としての戦闘、弱いものを守るため、あるいは任務において行使されるが、アリータの暴力はヒューゴの敵全てに向けられるようになった。端的に言えばガリィの暴力は男性的、アリータの暴力は女性的というところだろう。

まとめ

前述で列挙したように、いくつか個人的に物足りない点はあるものの、漫画原作のハリウッド映画としては近年ではよく出来た方だと思う。少なくとも原作ファンでも楽しめる。
また、個人的な考察としては、作中でアリータが「私はただの女」というセリフを言うが、この映画の核はこれだろうと考える。頭の固い父親に反発し、同世代のちょっと悪い男に惹かれ、その男に後追いや献身的なふるまいをするのはテンプレート的なヒロイン描写である。しかし作中最強の暴力を有し、恋人のために戦い、復讐を胸に英雄となるのは、今まで描かれてきたヒーローの描写だろう。
つまり、ヒロインとヒーローの両方を取り合わせたキャラクターとしてアリータが描かれている。
記憶喪失にして最強というキャラクターは、バイオハザードのミラ・ジョヴォビッチと近いものがあろう。
このキャラクターは、原作ファンとしてはやや違和感があるが、一般ウケはあると思う。

願わくは興行収入が良くて続編が出て、LastOrderまで行ってくれたらなあ。