かけらブログ

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ICL手術(眼内コンタクトレンズ手術)を受けて半年ちょっと経ったのでそろそろまとめる

気づいたらブログを1年放置してた。意識してアウトプットをしないと人はすぐ怠惰なインプットだけの生活になってしまう。全てはSNSが悪いよ。あとYouTube。このブログに自分のTwitterアカウントを表示させてるけどわかりやすい。Vばっかりだ。しかし1年も経ってたか。

初めに

本記事はタイトルのICL手術(眼内コンタクトレンズ手術)について、1.手術を受けるきっかけ、2.手術への考え方、3.手術を受ける施設の選び方、4.手術レポ、5.術後半年間の生活、6.将来について個人の感想をそれぞれまとめていく。

偶然?ではあるが、前回(約1年前)更新した記事はVRHMDについてで、裸眼だと見えないからレンズパーツを取り付けたという話をしていた。これが不要になったということだ。コミコミで1万5千円だかしたのに。早ければ早いほど良かったってワケね。

1. 手術を受けるきっかけ

ICL手術と聞いてすぐピンと来る人はまだそう多くないのではないか。視力回復を目的として目に施す手術はおそらくレーシックが一番知られていて、厳密な視力回復とは異なるが白内障の治療等がそれに続くと思う(※主観)。
ICLはImplantable Contact Lensの略語で、眼内コンタクトレンズ手術と言う通り眼球内にレンズを入れ込み、残置する手術になる。コンタクト(=接触)レンズの元の意味からちょっと外れてる気がしないでもない。

手術そのものの詳しいところはICL研究会というサイトがあるので参考にされたい。歴史自体はレーシックより古いが、最近になって技術革新があり術後のQoLも安定するようになったとか。

icl-japan.net


手術を受けるきっかけの前に、俺の視力矯正の変遷について先に説明しておこう。
中学入学あたりから近視の兆候が出始め、1年経たないうちにメガネを誂えないといけない視力にまで落ちた。以降10年ほどはずっとコンタクトレンズとメガネを併用する人生を送ってきたが、この間に視力は1.5から0.0X代にまで落ちている。

そして最初に就職した会社がかなりの長時間労働で、1日12時間以上ディスプレイを睨み続ける仕事をしていたためか、20代後半からはドライアイを発症し、日常的なコンタクトレンズの使用がかなりツラい体質になった。

ICL手術を受けるまでは普段は基本的にメガネ、プールやダイビング、サウナなどメガネの使用が難しいシーンでごくたまに短時間コンタクトレンズを使っていたが、こんな視力矯正スタイルの人は結構多いのではないかと思う。


そういうメガネ主体の生活は日常で特段困っているということもなく、当たり前のものとして受け入れていたが、ある日の早朝に地震が起きて考えを改めることになる。

震度はそう大きくない3程度だったが、前日どこにメガネを置いて寝たのか分からず、もしこの地震がさらに大きくなってきたらどう視力を確保するか揺れの中で思案を巡らせていた。この経験がかなり強烈に働き、視力矯正手術を真剣に考えるようになる。

もし震度5とかで周りの物が落ちるような地震なら、身を守ることだけで精一杯でメガネを探すことも難しくなったろうし、さらに大きい地震なら避難自体が困難になったことだろう。そんな状況では悪くすると死んでいたかもしれない。仮に避難できてもその後の生活で周りの文字が読めない・環境が分からないというのは不便というレベルでは済まない命の危機にすらなる。

視力が悪いということは、メガネやコンタクトレンズという強力なツールでバリアフリー化されているだけで、生きる上では身体障害に他ならないことを痛感した。こと非日常においてそれは何倍ものリスクになるし独り身ではなおさらだろう。

そういう経緯で視力矯正手術を探し始めた。つまり、手術を受けるきっかけは地震です。


2. ICL手術への考え方

さて視力矯正を行おうと考えるに至って、まずどういう手術があるのかを調べた流れをダラダラ書いておく。当時はレーシックしか知らなかったが、そのレーシックにしてもちゃんと知っているとは言い難い。とりあえずGoogleで「レーシック」を検索してみた。

レーシック専門クリニック、視力矯正の総合クリニック、クリニック、クリニック、クリニック…。SEOがしっかりしている。上の方のサイトを一通り眺めてみて、施術方法や施術料金は色々あることがわかった。特に全国展開している大手クリニックは複数プランを出しており、安い方のプランは破格に安く、スマホより安いようなプランもある。割引キャンペーンもあの手この手でやっているようだ。

続いてサジェストにある「レーシック 失敗」の検索結果のうち、特に生の声が出ていそうなブログ系を見ていく。良くない結果になってしまった人は一定数いて相当にしんどい思いをされているようだ。視力矯正手術はQoLが著しく低下するリスクと万一の時の視力確保を天秤にかけて臨むべきところだと思わせる。

Twitterで検索してみる。これから受ける人、既に受けた人、迷っている人の意見を探ろうという判断だ。しかしこの手は結論から言えば大した成果は得られなかった。副業ブログのようなアカウントがもりもり出てくる。大手クリニックの展開しているお友達紹介でキャッシュバックキャンペーンが奏功しているようだ。あまり近寄りたくはないオーラがある。

だが、この業者まみれのレーシックに関するツイート群の中で、ICL手術を検討しているという人がいた。曰く、「角膜が薄すぎてレーシックを受けられないが、ICL手術ならできると説明された。しかし手術費が高くて迷っている」というような内容だった。ICL手術とはなんぞや

ここで再度Googleに戻り、ICL手術について検索してみる。クリニック、クリニック、クリニック、クリニック…。レーシック屋と同じ顔ぶれだ。先のツイートで言われるとおり、レーシックに比べてICL手術は高い。レーシックの高級なプランとICL手術の一番安いプランがほぼ同額くらいの水準だった。

先のTwitter検索の失敗を鑑みて、今度はnoteやはてなブログなどのブログサービスでICL手術について調べてみた。特にnoteにはICL手術の体験談が多くあり、自己投資が云々だとかのキラキラ系記事を除いても、参考になる意見が比較的多く得られた。


結論として、個人的な判断だが、ICL手術とレーシックとを比べたメリットとデメリットを列挙しよう。

ICL手術のメリット
  • レーシックに比べて、眼球を切開する長さがごく小さく、ドライアイになりづらい
    ICL手術に惹かれた一番の理由がこれだった。ドライアイは眼球表面の神経が切断されると起きるので、大きく切れば発症の確率は当然増すだろう。すでにドライアイを患っている身としては、レーシックで更に重篤なドライアイになるのは絶対に避けたい。
    また、切る範囲が小さいのは単純に安心感がある。レーシック後に角膜のフラップ(蓋)がズレたり剥がれたりの話もあるようで、想像するだに恐ろしい。

  • レンズを入れる手術であるため、必要なら再手術でレンズを取り出せる
    レーシックが角膜を削る不可逆な手法であるのに対して、ICL手術は一応だが可逆性を担保している。ただレンズを摘出する時は眼内のレンズを眼内で砕いて取り出すため、眼内への影響は当然不可避だろうし、その手術の切開の大きさも最初の手術よりは大きくなるようだ。
    ICL手術は老眼に対応したやり方も行われているようで、いずれ今のレンズを取り出して老眼用レンズに入れ替える日が来るかもしれない。

ICL手術のデメリット
  • 価格
    先に書いたとおり、ICL手術はレーシックより高い。調べた範囲だとレーシックは両目で10万円を下回るところからで、最高級なら60万円を超えるプランがあった。一方でICL手術は最低でも50万円弱から始まり、高いプランなら80万円弱になる。
    しかしデメリットと言ってはいるが、これは必要経費だとも思っている。レーシックの安いプランが安いのは、レーザーの機械が古く、すなわち性能が低いものであるためらしい。レーザーの照射密度や削り方の均一性だとかに性能が露骨に現れるようだ。
    ICL手術の価格はすなわち執刀医の腕につけられた値段で、安いプランはレーザー切開を行うため人を選ばないタイプ、高いプランは国内どころか世界で最高レベルのICL手術執刀経験をお持ちの大先生が自ら切るタイプになる。
    後述するが、俺が選択したのはこの中で一番高い大先生プランで、指名料1万円まで取られるVIPコースだった。

ICL手術とレーシックを比較した時のメリットとデメリットの結論だが、メリットはQoL的に必須の条件であるのに対して、デメリットはたかが金の問題である。個人的には数十万円程度をケチって雑な施術で目が終わるのはありえない。視力矯正の目的は不測の事態で外部装置に頼らない視力を得るためなので、自ら目玉ぶっ壊しに行ってどうするんだという話になる。必ずしも壊れるわけではないが、リスクは当然小さくしたい。
そういうことで、レーシックではなく、ICL手術を受ける選択をした。

3.手術を受ける施設の選び方

ICL手術を受けると決めてからは具体的にどこの施設で受けるかを考えることになる。と言っても施設の分類でざっくり言えば、『50万円弱から受けられる施術』VS『80万円弱かかるが経験豊富な執刀医による施術』の2択になる。ここからは検討した具体的な施設名を出していこう。
今後の検診やトラブル対処を鑑みるとアクセスのしやすさも重要になるため、基本的には東京都内の施設になる。

50万円弱からの施術
  • 品川近視クリニック

全国展開しており、東京院が通勤ルート近くにあったので(品川じゃなくて有楽町が最寄りだった)、一番最初に事前検診を受けに行った施設。事前検診が無料というのがウマいポイント。ここでそのままICL手術を受けることも考えなくはなかった。事前検診は後で受けた病院の方と変わらず2~3時間程度かかり、検査の数も同水準だったことから、雑なことはしてなさそうだ(あくまで印象)。

検診の最後に施術内容の説明を受けたが、ここではICL自体に『手ずからメスで切る』か『レーザーで切る』の2択があり、『』なら50万円弱で『レーザー』なら70万円台というプランだった。『レーザー』は角膜表面から内面に向かってクランク状に切る事ができるので、眼圧によってクランクが噛み合い傷が開くことを防げるとの説明があった。

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角膜の切り方のイメージ

また、俺自身の眼球の特徴についての説明と提案もあった。眼球自体が大きく角膜も平均より5%程度は厚いので、レーシックとの相性が良いとの話である。これはつまり高いICL手術でなくとも比較的安価なレーシックで対応可能ということと、ICL手術を受けた後で視力が低下した際でもレンズ交換をせずにレーシックで対応可能ですよということであるらしい。なるほどとは思ったが、結局ドライアイを併発しかねない以上、レーシックは選択肢には上がらないのでICL手術のみに絞って考える。


  • 新宿近視クリニック

品川近視クリニックと似た名前のクリニック。新宿は自宅や勤務地から外れているので対象外だが、価格はかなり安いようだ。ただ、レーシック関係のブログで名前を何度か見た時はあまり良い評判が書かれてはいなかった。


80万円弱かかるが経験豊富な執刀医による施術施術
  • 山王病院

青山にある病院で比較的に職場から近く、自宅からのアクセスも良好である。最初の方にリンクを張ったICL研究会の代表の清水公也氏がいるとのことで調べた。清水氏はICL Senior Expert Instructorなる上級指導医の肩書を持っていて、現行主流の穴開き型の眼内レンズを開発した人でもあるとのこと。執刀の経験値で言えば文句のつけようがないだろう。そして結論から言うとこの清水氏を指名しての手術をした。当時は指名料が1万円+消費税10%がかかったが、この記事を書くにあたり病院のサイトを見たら1万5千円+消費税10%になっていた。指名トップ。


丸の内にある病院。アクセス自体は山王病院とそう変わらない。ここの代表の北澤世志博氏はICL Expert Instructor であるらしい。広告の展開が多く、きゃりーぱみゅぱみゅマフィア梶田の施術を広報していた。執刀の経験値もかなり多いようだ。
ただ、この北澤氏はICL失敗ブログ等で名指しされていたりでどうも100%の信頼に欠けるところがあった。ブログの評判が絶対でもないだろうが、どちらを選ぶかと言われると選ばない方のタイプだった。


都内のICL手術をやっている施設をいくつか比較検討した結果を列挙した。事前検診を含めて最終的に山王病院に決めるまでの実際の流れだが、

①品川近視クリニック

②かかりつけの眼科医

③山王病院

というものになっている。①品川近視クリニックで事前検診を受け、②かかりつけの眼科医でICL手術について相談、その後に③山王病院にて事前検診を受けたというものになっている。

なぜこういう経緯になったかだが、まず①品川近視クリニックで「ICLには乱視対応レンズ(普通より10万ほど高かった記憶があるが曖昧)もあるので、これを使用する必要があるのではないか?」と聞いたところ「近視だけの対応で乱視対応は不要」という説明を受けた。以前から乱視があると診断されていることについては「強度の近視だとそういう診断になることもある」というような言いぶりをされた。

以前から乱視の診断を受けていたのに乱視が無いとの食い違いから、②かかりつけの眼科医で視力検査を受け、やはり乱視はあるとの診断をされた。この時点で品川近視クリニックの選択肢は無くなった。また、このかかりつけの眼科医で検討していた山王病院の名前を出すと、「清水先生ならまあ大丈夫でしょう」という評判を得られたことも後に山王病院を選択する一助になっている。

③山王病院での事前検診だが、乱視はあると言われた。しかしここでも乱視対応レンズは不要であるとの説明を受ける。どういうことかと聞くと、「眼内にレンズを入れる時の切開位置を調整し、角膜の変形で乱視に対応する」らしい。パンパンに張った水風船のような眼球の一部を切ると緩んで変形するのは一応イメージの出来る理屈ではある。乱視矯正のために眼球を切る手法もあるようで、得心が行く説明を受けられた。

かようにして、山王病院に決めてICL手術を受ける次第となった。2020年の12月頭に事前検診を受け、その後2021年1月中旬直前検診、同1月下旬に本番の手術を受けた。手術の詳細は次の項に書く。
ちなみにICL手術は自由診療なので保険の適用は受けられない。ただし医療費控除の対象ではあるので、時期を調整して2021年に予約を入れた。確定申告を忘れずにやろう。


4.手術レポ

さて手術レポである。手術に先立って1週間前の直前検診時に消毒用の目薬を渡されており、これを手術までの毎日3回点眼して目の調子を整えて臨むことになる。またご時世柄、前日にはPCR検査を受けて陰性である必要があった。

山王病院自体のレポだが、ハイソな青山に位置するだけあってか、雑な表現をすると内装がホテルみたいにゴージャスになっている。病院というと薬品の匂いや延々長いリノリウムの廊下のイメージがあるが全くそれらとは一線を画していた。フロアはカーペット敷きだし、待合スペースにはなんとピアノまで鎮座している。

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(公式サイトより待合スペースの写真)

この作りの高級感は検診を受けていた外来棟もそうだし、手術当日に通された入院棟でも同様である。ちなみに品川近視クリニックの検診エリアもあまり病院らしい感じはないが、こっちはどちらかというと役所とか免許センターに近かった。流れ作業の効率性を突き詰めた収斂進化だろうか。

手術当日、朝8時に眼科に声をかけ、入院棟に行けと指示される。ここで個室の病室をあてがわれ、直前の消毒の目薬と麻酔の目薬を出される。ここからはずっと裸眼になるので、元からボヤケている周囲の光景は麻酔の点眼で更に曖昧模糊としていた。人生初の手術着を着てしばし待つと先ほど病室に案内してもらった看護師の人が呼びに来た。

再び眼科に着くと、普段視力検査をしていたエリアの奥に通される。手術室というからには結構隔離されてるものと思ってたが検診スペースから10歩と離れていなかった。こんな近くで目を掻っ捌いていたとは。この日は俺を含めて5人ほどがいたらしく、既に手術室は前の順番の人が入っていた。病室のすぐ外で待たされたが、ここは患者の家族のポジションではあるまいか等と益体もない考えが出てくる。

この時、指先にパルスオキシメーターを装着していたのだが、普段の血圧は高くとも上下で120/80くらいのところ、人生初の手術を前にしてかつて無いほどに緊張した結果、上下で170/120にもなっていた。15分ほど待っただろうか、前の人が手術室から出てくると同時にお呼びが掛かる。そんなインターバル無しでザクザクやって大丈夫かといらん不安感が頭をもたげてきたが、ともあれ薄暗い手術室へ通された。


手術室はそんなに広くなく六畳一間程度で、壁際には各種の機械が隙間なく並び、部屋の中央に歯科医のそれにも似たリクライニングシートがあった。これに座るとシートが後傾し、仰向けの姿勢になる。まずは左目からだったか、まぶたを押し広げつつ眼球を固定する器具をつけ、更にその上から粘着性のあるシートで眼球以外の顔面を覆いつつまぶたが固定された。絵的には多分唐傘お化けにかなり近い。

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いらすとやはなんでもあるな

さらに、眼球の乾燥を防ぐためか水滴を流す機器をつけられ、そして顔面の上に無影灯らしきものがスライドしてきた。らしきものというのは、ただでさえ視力が低いところに麻酔が効いてピントが合わず、その上に乾燥防止の液体がかぶっているため、ほぼボヤケた光源としか分からん状況だったからだ。

この外部の状況がほとんど遮断された状態で眼球にメスが入れられてくる。もちろん痛みは無く圧迫感だけだったが、切られている感じは伝わってくるので、この時が最高に緊張していた。執刀している先生からは眼球を動かさないこと、頭も動かさないこと、そして呼吸をちゃんとすることを指示されていた。人間は極度の緊張状態になると人から言われるまで呼吸すら止めてしまうものだと実体験を以て理解した次第である。

メスの後でさらに一際強い圧迫感があり、どうやらこの時にレンズが入ったらしい。レンズを入れた後でさらに虹彩の後ろにはめ込み、位置調整をして完了となる。この間はずっと眼球圧迫祭りであるが、メスの時よりは緊張しなかった。

片目が終わると器具を付け替えてもう片方の目にも同様の処置をするが、上でも書いたように乱視の調整のために切る場所を調整するということで、俺の場合は角膜の上側、ちょうどまぶたで隠れるところを切っていた。人によっては切開する場所が異なるかもしれないが、まぶたで傷口が押さえられるのは良いのかもしれない。

両眼の手術が終わるのに20分くらいだろうか? それくらいで済んだようにも思えるが一連の処置の間は片目が1時間かかったようにも感じる。してみるとICL手術はジェットコースターに似ているかもしれない。バーで体が固定されて安全性は確実だが逃げる事もできず、ひたすら恐怖を感覚器に叩き込んで、乗っている間は時間が極端に長く感じるが終わったら一瞬で開放感がある。乗ってる時に呼吸を止めがちなのも同じだった。


リクライニングシートが起き上がって、看護師の人に手を取られながら手術室を後にした。俺の後番の人が入れ替わりに入っていく。後で同じ手術を受けた人と感想を共有したい気持ちが芽生える程度には強烈な体験だったが、もちろん患者同士は隔離されているので出来ない。眼科の部屋から入院棟のあてがわれた部屋までは一人で帰るように言われた。しばらく様子を見るために待機となる。

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ホテル並みの病院食

昼食として出された病院食はすこぶる豪華で、多分こういう手術を受ける人用のコースかもしれない。このグラタンやウィンナーの汁物が温かかったのをよく覚えていて、温かい食べ物は緊張をほぐしてくれる。人心地がつくということをまた実体験を以て理解できた。

昼食を終えて昼寝をしていると術後検診に呼ばれる。この時、同じ日に手術を受けた人たちは既に着替えていて、手術着そのままで出てきた俺はちょっと浮いていた。ともあれ検診を受けると、ひとまずは大丈夫とのことで退院許可が出た。病室に取って返して着替え、術後用の目薬をもらって病院を後にした。

眼球を手術した直後なので、化学薬品を扱う時に使うような保護ゴーグルを装着しての帰宅になる。帰路はまだ散瞳薬や麻酔が効いていて視力の回復は体感できないし、ほぼ裸眼のようなものなので誰か連れがいてもいいかもしれない。通いなれたルートなら支障はないだろうけど。


帰宅後に数時間かけて薬が切れてくると、やはり切開したところに違和感がある。コンタクトがズレて瞼の裏に入り込んだ時のような異物感、ゴロゴロ感があった。これは切った場所が場所なので、まあ仕方のないことではある。傷口をふさげていることの証拠でもあるので割り切って付き合う。日が落ちるころには完全に薬が切れているので普通にゲームを出来る程度にはなっていたが、大事をとって短めにして寝た。

明くる日の朝、起床してメガネをかけずに良好な視界!となれば良かったのだが、実際の視界は白く濁ったようになっていた。まさかすわ白内障かとビビったのだが、この日の検診で相談すると一時的なドライアイになっていたらしい。こういう事例は多いらしく、眼球を切ったらさすがにそういう影響は不可避のようだ。この日はドライアイに効く目薬をもらってきたが、これがよく効いてその日以降は寝起きに視界が白く濁ることはなくなった。


手術から3日間は雑菌が入ることを避けるため、洗髪・洗顔が禁止されている。首から下のシャワーとか蒸しタオルで顔を拭くとか洗わないシャンプーとかはOKだが、この辺の禁則事項は病院やクリニックによって異なる。品川近視クリニックの場合は1週間洗髪NGと説明をしていた。

俺は1月に手術を受けたので3日間の洗髪・洗顔NGも耐えられたが、もし夏場に手術を受けたらこの縛りはかなりキツかったかもしれない。なお当然ながら手術当日と翌日は休みを取ったし、その後も在宅勤務でしのいだ。さすがに数日洗ってない頭で出勤は出来ない。もしICL手術を受けようと考えている人がいるのなら、休日や在宅勤務を上手く利用するのがいいと思われる。

5.術後半年間の生活

手術から1週間も経つと眼球は完全に安定し、目薬を点さずとも寝起きにドライアイになることもなくなった。素晴らしき裸眼生活の始まりである。

平時に大きく変わったのはやはり水気との付き合いで、特に趣味としているサウナ通いがより楽しくなった。コンタクトをつけてサウナに行くと、サウナ施設にもよるが目に張り付いたコンタクトが乾いてひどい目にあう(ダブルミーニング)。この強制ドライアイは裸眼で行けば解決はするが、裸眼だとサウナの時計だとか水風呂の温度だとかテレビだとか、サウナを楽しむための設備が見えない。サウナから出た後もコンタクトをつけっぱなしで寝るとドライアイになる。そして平時は眼鏡ユーザーだったので、仕事帰りに足を伸ばしてサウナという選択肢も新たに増えた。QoLが確実に上昇したと言える。

他に日常レベルだと、汗の処理にも悩まされることが無くなった。眼鏡をしていると顔の汗を拭くにも眼鏡を外す必要があるし、眼鏡自体が汗で汚れることもある。自宅で筋トレやエアロバイクをやる時にこれらは大きい。ディスプレイを見ながら運動できるので、ゲームしながらエアロバイク漕いだりVtuberの配信を見ながらリングフィットアドベンチャーが出来るというわけだ。

手術を受けたのは真冬だったので、眼鏡が室温差や呼気で曇るアレも無くなった。かなりピンポイントな話ではあるが、見た目も良くないし眼鏡ユーザにとってはめちゃくちゃストレスなことが解消されたのは大きい。

一方で、裸眼だと気づいてなかったところに気づくようにもなった。例えば自宅の風呂の汚れだったり、顔の汚れだったり。感覚器のアップデートにより丁寧な暮らしを心がけるようになるというのもあるかもしれない。

手術の当初の目的であるところの地震を始めとする有事の対応はまだ起こっていないが、ひとまず寝起きですぐ視力が確保できているのはかなり大きい。今までお世話になった眼鏡達も捨ててしまった。

6.将来

さて、将来のことである。無論、眼球の将来である。

俺が手術によって眼球内に得たレンズであるが、白内障への対策を謳われている穴あきレンズになっている。眼球内の水分の動きが阻害されると白内障のリスクが高まるので、穴により水分の動きを確保して白内障のリスクを低減させるというお話なのだが、もちろん何も入れない時に比べれば水分の動きが悪いだろう。

一応、ICL手術をする側の研究では手術後も白内障の割合には有意な差がないらしい。ただ、人間はほっといてもどうせ白内障になっていくので開き直って考えるしかない。レンズは水晶体の角膜側にあるので、白内障手術に際してはレンズ除去の必要があるが、この対応には別途の費用がかかるかもしれない。

そして早ければ40歳あたりから始まる老眼もある。上の方で書いたが、老眼対応ICL手術というのもあるようだ。これは通常のICL手術よりも開発されてからの期間が短いため、実績についてはまだ分からないところが多い。俺が老眼に悩む頃にはもう少し改善されているかもしれないが、老眼は近眼よりは致命的な事態にならなそうなので老眼鏡での対応がベターだろうか。

最後に

ICL手術についての個人的な感想を書いた。もしこのブログを読んでる人がいて、リスクを自分で調べて納得出来たのなら手術を受けるのも良いだろう。俺ももっと若いうちに受けたかった気持ちがある。

手術費用だが、俺が手術を予約した頃に亡くなった祖父の遺産相続分を充てさせてもらった。祖父もそれなりの近眼だったので使い途としては良かったのではないだろうか。先日が初盆だったが、帰省は出来ていないのでいずれ帰りたいところ。